大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 昭和33年(わ)351号 判決

被告人 玉載善

大一二・二・八生 無職

主文

被告人を判示第一の物価統制令違反の罪について罰金五万円に、判示第二の有価証券偽造行使の罪について懲役一年に、爾余の罪について懲役十年に、各処する。

被告人が右の罰金を完納出来ない場合には金二百円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。

なお未決勾留日数中、三百日を右の懲役十年の刑に算入する。

押収のドライバー三個(昭和三十四年領第十六号の一、同二、同五)、同懐中電灯一個(同領号の三)、同証拠品換価代金七千百二十八円(前橋地方検察庁昭和三十三年領第四百五十四号の符第十七号)および同乗用自動車一台(四十九年型ダツチ・東五五―五六七九・東京都自動車登録番号三せ〇一九一)は、いずれもこれを没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、法定の除外事由なく営利の目的をもつて、昭和二十三年九月十三日頃、北海道札幌市南三条西九丁目坂野春雄方において、統制額を超えて販売する目的にてゴム長靴(十文以上)四十四足を所持し、

第二、昭和二十五年十一月二十二日頃、鹿児島市西千石町三十四番地山之内繁方に於て行使の目的を以て約束手形用紙一通に額面金十万円也支払期日昭和二十五年十二月二十日支払地振出地共大阪市支払場所大和銀行平野町支店振出日昭和二十五年十一月二十二日振出人住所大阪市東区唐物町四丁目三二と記載し且つ振出人極東金属株式会社取締役社長吉岡厳と冒書しその名下に社長印を押捺し以て約束手形一通を偽造し更に同日同所に於て真正に成立したものの如く装い右偽造にかかる手形を山之内繁に交付してこれを行使し、

第三、(一) 昭和三十二年四月一日午前一時三十分頃東京都品川区大井立会町四百八十七番地今村方店舖内に於て山本亘所有に係る新品紳士靴、同婦人靴六十九足、スーツケース、ボストンバツグ各一個(時価合計十六万三千三百円相当)を盗み出し、

(二) 同年同月三日午前二時頃同都中野区昭和通り三ノ四十一番地野地敬治方店舖内に於て同人所有に係る純毛洋服地約八十二ヤールおよび背広上衣一着(時価合計三十二万八千五十円相当)を盗み出し、

(三) 小松定義、松本茂と共謀の上、昭和三十二年八月十一日午前二時頃大阪府堺市安井町五番地伊藤好男方において同人所有の綿作業ズボン等二百七十点(時価合計十六万七千六百円相当)を盗み出し、

(四) 増田三郎、芦分定義の両名と共謀し、昭和三十二年八月十三日頃大阪市西区立売堀南通り一の二十三秦商事株式会社秦専太郎方に於て同人管理のアルパカ洋服裏地約四十反、毛芯約十三反(時価八十九万二千九百四十円相当)を盗み出し、

(五) 増田三郎、芦分定義、松本茂と共謀し、

(イ) 昭和三十二年八月十八日頃岐阜市元町一の四番地三和羊毛株式会社熊田樹一方において同人管理の黒カシミヤ洋服生地七本他洋服生地六本及サージ紺色生地等十一点、毛糸十ポンド入一包(合計時価百三十五万千円相当)を盗み出し、

(ロ) 同年同月二十七日頃東京都千代田区麹町六の三小林市郎方において同人所有の黒ドスキン洋服生地等三十三本(時価合計百五十六万五百円相当)を盗み出し、

いずれも、右各物品を窃取し、

第四、昭和三十二年九月一日窃盗被疑者として逮捕され同年九月四日東京簡易裁判所において勾留せられ、同月十二日警視庁久松警察署代用監獄留置場に在監の侭東京簡易裁判所に窃盗罪の被告人として起訴され同留置場第五房に在監中、同房在監者石井清、佐藤祐一、伊藤孝雄等と共謀の上、予め持込んだ金切鋸を使用して第五房の窓の鉄棒を切断し更に金網の一部及金網押への鉄片を剥ぎ取り破壊し留置場より逃走せんと企てたが看視巡査に発見されその目的を遂げなかつたものである。

第五、西原三郎こと韓商錫および松本茂と共謀し、

(一)  昭和三十三年六月六日午前二時頃、兵庫県伊丹市昆陽字城の前十三番地電気器具販売業船尾喬治方表硝子戸をあけ、同店舖内に侵入し、同人所有にかかるテレビ三台、ミキサー四台、扇風機十一台(時価合計三十八万四千八百円相当)を盗み出し、

(二)  昭和三十三年六月九日午前三時頃兵庫県加古川市本町二丁目三百八十番地呉服商金川ヨシノ方店舖板戸の潜戸をあけ、同店舖内に侵入し、同人所有にかかる婦人用ゆかた地百四十五反、御召地三十八反(時価合計三十六万三千五百円相当)を盗み出し、

第六、山中茂と共謀し、昭和三十三年六月十二日午前三時三十分頃、神戸市東灘区本山町田中三百二十五番地呉服商服部正夫方店舖雨戸の潜戸より同店舖内に侵入し、同人所有にかかるウール着物地等合計二百七十五点(時価合計三十万六千九百七十円相当)を盗み出し、

第七、裴正守と共謀し、昭和三十三年六月二十五日午前一時頃、栃木県今市市瀬川百五十八番地有限会社湊屋呉服店(代表取締役田野辺徳平)方店舖内に侵入し同会社所有にかかる男物ズボン約二十三本、木綿布団側約三十五反絣反物約八十二反、木綿縞反物約四十二切、婦人用上衣約六枚(時価合計約七万五千五百六十円相当)を盗み出し、

第八、福本こと裴正守および高田こと布施隆章と共謀の上、昭和三十三年六月三十日午前一時頃静岡県島田市本通り五丁目七千八百八十番地寝具商増田栄太郎方店舖内に侵入し、同人所有にかかる布団地約百二十四反、敷布約三十六枚、サラサ約三百六十ヤール、リンネツト約二十ヤール(時価合計約十一万八千九百四十円相当)を盗み出し、

第九、裴正守と共謀の上、昭和三十三年七月十八日午前二時頃栃木県日光市石屋町四百二十番地有限会社阿久津ラジオ店阿久津正男方の店舖内に侵入し同会社所有にかかる電気釜三個、中型ラジオ、小型ラジオ、扇風機各一台電気アイロン約四台(時価合計約五万三千二百八十円相当)を盗み出し、

第十、裴正守と共謀し、昭和三十三年七月二十日午前三時頃群馬県前橋市桑町四十五番地株式会社井上毛糸専門店井上正春方の店舖雨戸の潜戸より同店舖内に侵入し、同会社所有にかかる毛糸約二百ポンド(時価約十二万六千五十円相当)を盗み出し、

第十一、李鐘浩と共謀し、昭和三十三年八月三日午前三時頃大阪府豊中市桜塚元町四丁目十一番地服地販売店コマドリ洋装店こと西尾リツ方店舖表板戸の潜戸より同店舖内に侵入し同人所有にかかる洋服生地約五十九点(五九三・七ヤール時価合計約二十六万七千五百八十三円相当)を盗み出し、

第十二、李鐘浩と共謀し、

(一)  昭和三十三年八月四日午前三時頃、静岡県盤田市仲町二百四十五番地既製服販売業松井幸一方店舖表板戸の潜戸をあけ同店舖内に侵入し、同人所有にかかる既製ズボン約十三本(時価合計約三万四千七百円相当)を盗み出し、

(二)  同月五日午前零時頃、埼玉県熊谷市熊谷二千八百八十六番地電気器具販売業松沢金一方店舖表硝子戸をあけ同店舖内に侵入し、同人所有にかかるテレビ四台(時価二十九万五千百円相当)を盗み出し、

第十三、木川二郎こと李鐘浩と共謀の上、昭和三十三年八月十五日午前二時頃前橋市中川町二十九番地電気器具商関根静江方店舖裏硝子戸をドライバーでこじあけ同店舖内に侵入し、同人所有にかかるテレビ五台扇風機九台他七点(時価約五十五万三千百円相当)を盗み出し、

いずれも右の各物品を窃取したものである。

(確定裁判ならびに累犯前科)

被告人は、

(一)  昭和二十五年四月二十四日神戸地方裁判所において臨時物資需給調整法違反の罪によつて懲役四月および罰金二万円に処せられ右の懲役刑は二年間その執行を猶予せられ、

(二)  同二十九年十一月八日名古屋地方裁判所において窃盗罪により懲役二年六月に処せられ、

右の各裁判は当時いずれも確定し右(二)の刑は昭和二十九年十一月二十三日頃よりその執行を受け昭和三十一年十一月十一日刑期満了出所したものである。

(情状)

被告人の本件犯行は長期間に亘りおり犯罪地域も北は札幌、南は鹿児島に及び関東関西を中心とし迅速機敏に判示の如き各犯罪を累行しかつ又、本件各窃盗を犯すに際しては、あらかじめドライバー、自動車、運転者等を用意し、昼間商品を大量に所持せる商店店舖等を物色し置き深夜該店舖に赴きこれら店舖の戸扉等をドライバー等にて開き右店舖に侵入し商品等を大量に右自動車に積込み、相当遠隔地に迅速に輸送してこれを処分し以つて検挙をまぬがれおりたるもの。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の物価統制令違反の所為は物価統制令第十三条の二、第一項、第三条、第四条、第七条、第三十五条、物価庁告示第七百七十七号(昭和二十三年八月三十日)に、判示第二の有価証券偽造の所為は刑法第百六十二条第一項に、同行使の所為は同法第百六十三条第一項に、判示第三の一乃至五ならびに判示第五乃至同第十三の各窃盗の所為は刑法第二百三十五条(共謀の点は同法第六十条を適用)に、判示第四の加重逃走未遂の所為は刑法第六十条第九十八条第百二条、第四十三条本文に、判示第五の(一)、(二)、判示第六、判示第七、判示第八、判示第九、判示第十、判示第十一、判示第十二の(一)、(二)、判示第十三の各住居侵入の所為は刑法第百三十条(共謀の点につき同法第六十条を適用)に、各該当し、被告人は前示の如き各確定裁判を受けているので判示第一の物価統制令違反の所為は前示(一)の確定裁判と、判示第二の有価証券偽造、行使の所為は前示(二)の確定裁判と、それぞれ刑法第四十五条後段の併合罪の関係に立つので、いずれも同法第五十条によつて未だ裁判を経ていない右の判示第一、同第二の各罪について更に処断すべく、判示第一の所為については情状により所定刑中罰金刑を選択しその所定罰金額の範囲において被告人を罰金五万円に処し、刑法第十八条によつて被告人が右の罰金を完納出来ない場合には金二百円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。

しかして、判示第二の所為中、判示有価証券の偽造と同行使との間には手段結果の関係があるので刑法第五十四条第一項後段第十条によつて犯情重き行使罪の罪の刑に従うべく右の罪につき所定の刑期の範囲において被告人を懲役一年に処する。

また、本件各犯行のうち、判示第五乃至同第十三の各住居侵入の所為はそれぞれ当該窃盗の所為の手段たる関係にあるので刑法第五十四条第一項後段第十条によつて重き当該窃盗の罪の刑に従い、判示第三の各窃盗と判示第四の加重逃走未遂と判示第五以下の各窃盗との各所為と前示累犯前科(確定裁判ならびに累犯前科欄の(二)の前科)との間にはそれぞれ再犯の関係があり、右の各窃盗と加重逃走未遂とは刑法第四十五条前段の併合罪であるから、刑法第五十六条第五十七条、第四十七条本文、同但書、第十条第十四条によつて犯情重き判示第三の(五)の(ロ)の窃盗の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲において被告人を懲役十年に処する。なお未決勾留日数については同法第二十一条によつてその内三百日を右の懲役十年の刑に算入する。押収にかかるドライバー三個(昭和三十四年領第十六号の一、同二、同五)および懐中電灯一個(同領号の二)ならびに前橋警察署保管の乗用自動車一台(四十九年型ダツチ・東五五―五六七九・東京都自動車登録番号三せ〇一九一)はいずれも本件窃盗の犯行の用に供したものであり、また領置してある証拠品換価代金七千百二十八円(前橋地方検察庁昭和三十三年領第四百五十四号の符第十七号)は本件判示第一の物価統制令違反の犯罪行為より生じたる物であつて、いずれも被告人以外の者の所有に属しないもの(就中、右の乗用自動車の登録名義は形式上被告人以外の者であるがこれは名目上のみのものにすぎず実質上は被告人の所有)であるから、刑法第十九条第一項第二号第三号第二項をそれぞれ適用していずれもこれを没収する。

訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文によつてその全部を被告人の負担とする。

以上によつて主文の通り判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例